「それは『赤信号はみんなが渡るときがいちばん怖い』という言葉です」とドイツ人は答えた。
「確かに日本と逆ですね。で、どんな意味なのですか」
「ドイツの歴史についてはご存知でしょう。私たちドイツ国民はかつて恐ろしい犯罪を犯したのです。どうしてそんなことが起こったのでしょうか。どうして『殺すな』という聖書の教えをあれほど簡単に破ることができたのでしょうか。それは私たちドイツ国民がみんなでルールを破ったからなのです」
ドイツ人はしばし沈黙した。「そうなのです。私たちは学んだのです。みんなで赤信号を渡るとき、とても恐ろしいことが起こるのだ、と。ちょっとあれを見てください!」と、彼が指差したその先には歩行者用の赤信号があった。
「あの赤信号の人物が、両手を広げて立っているのは、ああやって、後ろからやってくる人々が赤信号を渡らないように、防いでいるのです。そうやってドイツ国民ひとりびとりが自分の責任においてルールを守ろうとしているのです。歴史を繰り返さない、そういう固い決意があの赤信号に込められているのです!」
これを聞いた日本人は大いに感動したというが、ここで、真偽のホドについては、もろもろひっくるめて、それこそ神のみぞ知る、であるということを注記しておきたい。(おしまい)