ドイツに来て、靴に穴が空いているのに気がついた。
つま先の横のゴムの部分に切れ目が入っていて、私はそういうデザインかと思っていた。だが、旅に出ると時間ができる。それでよく見てみたら、単に劣化しただけなのだった。どうりで雨が降ると水が滲みてくるわけだ。
明日は人前に出る用事があるので、急に恥ずかしくなった。自分でも気がつかないくらいなので、どうということもないかもしれない。だが、と私は考えた。もしかしたら、日本でも周りの人はとうに穴の存在に気がついていたけど、不憫に思って言わなかっただけかもしれない、と。
そこで、私は靴を買いにベルリンの街に出た。歩き回って(つまりそれだけ靴を消耗して)ようやく靴屋を見つけたので入ってみた。きれいなスニーカーが並んでいる。値段を見ると、160ユーロ(2万7千円)だ。高いので他を探すと、どれをみても100ユーロ以下のものはなかった。1万7千円の靴など、絶対にこれを履いて歩かない、という固い決意がなくては買えない。
別の店を探すと、近くに大型衣料品店があった。吊るされている服を見るとどれも安い。靴も置いてあった。値段を見てみると、50ユーロ(8千円)だ。もうこれしかない、と思って靴選びを始めるが、どの靴も日本だと2〜3千円のレベルなのだ。日本なら8千円でもっと気の利いた靴が買える。そう思うとあんなに旺盛だった購買意欲も失せた。
ホテルに帰って、もう一度、靴の穴を観察した。最初に見たより、穴が小さくなっているような気がした。たぶん、明日には塞がっているのではないかと思う。