モバイル注文システムほど人類の夢を掻き立てるものはない。なぜならこれほど人間を苛立たせ、バカにされた気分にするものはないからだ。そのいっぽう、店側にとってこれほど便利なものはないのだ。つまり、これから大いに改善の余地があるのであり、それで人々はさまざまに空想を膨らませているというわけだ。
ある人は AI の発達により、注文という行為すらなくなると主張し、またある人は、いずれこのシステムは捨てられて、もと通りに人が注文が取りに来るだろうと考える。あるいは、人の代わりに高度なロボットがやってくると想像を逞しくする者もいる。
また、7月5日以降、人類が大きく変わると信じる者たちの中には、人類への最後の試練として、ナビダイヤルによる注文になると警鐘を鳴らす者がいるかと思えば、反対に、アセンションの結果、人類は調理場の人々の脳に直接声を伝えることができるようになると喜ぶ者もいる始末だ。
私にはまったく想像つかないが、ある科学者の予想がとても気に入ったので紹介しよう。
その科学者によれば、科学の発達により、客は仮想空間に転移して注文することになるというのだ。そうすれば、大きなメニューも広げられるし、仮想人物を直接呼んで注文することも可能だという。これならばモバイル注文システムに文句タラタラの人も大いに満足するに違いないのだが、その科学者はさらに踏み込んだ予想をしている。
仮想世界においてもいずれモバイル注文システムが導入されるだろうということだ。