苦い文学

しがらみなきゾンビの時代

その政治研究所は、日本の政治をより良くするために設立された団体だった。元来は政治に関する発言や提言を行なっていたが、やがて、しがらみのない人間の培養を行うようになった。

どうしてかというと、日本に欠けているのは、しがらみのない政治だからだと考えていたからだ。強権と忖度が横行する日本では、政治は常にしがらみによって歪められていた。政権は自分たちが癒着している富裕層のために政治を行い、それ以外の貧困層には見向きもしなかった。まっすぐで正しい政治が行われるためには、しがらみのない人間が政治家にならなけれならなかった。

だが、当時の日本にはしがらみのない人間はひとりとしていなかった。どの日本人も特定の親から生まれてきたのであり、生まれたときから親子関係というしがらみに縛られていたのだった。

そこで、「完全にしがらみのない人間を生み出し、しがらみのない政治を実現させよう」と決意した研究所は、研究と実験を繰り消し、ついにしがらみのない人間の培養に成功した。

その日、ついにしがらみのない政治が実現する日がやってきた。研究所の門が開かれ、しがらみのない人間たちが続々と出てきた。これらの存在は、日本中へ散っていき、やがて人間たちを襲い始めた。

しがらみなきゾンビの時代が始まったのだ。