苦い文学

しがらみのない政治

吉田百郎がついに県会議員に当選した。「しがらみのない政治」というたったひとつの政策を提げて、利権と忖度にまみれ、裏金と暴言に毒された県議どもに挑み、勝利したのだ。

「みなさんのおかげでしがらみのない政治がついに実現しました!」

当選の一報を受けて、吉田は事務所でこう語りかけた。目の前には、吉田が立候補表明して以来、全力を尽くして選挙を戦ってきた支援者たちが満面の喜びを浮かべて詰めかけていた。熱烈な拍手が沸き起こった。

そのとき、これらの支援者を前にして、吉田百郎は、あらゆる応援を捨て去った。ちょうど蛇が皮を脱ぎ去るようなものである。さらに吉田百郎は、有権者の票を捨て去り、諸々の県民と県の諸々の問題を捨て去った。ちょうど蛇が皮を脱ぎ去るようなものである。

こうして吉田は、あらゆるしがらみを脱し、それにより有漏にして有為なる世界を択滅した。そして、無為にして無漏なる涅槃へと到達し、解脱に至った。

なお、県選挙委員会によれば、吉田百郎の失職にともなう補選は、今月17日に告示され、24日に投票が行われる予定である。