中学生のころ、私は本屋に行くためにひとりでお茶の水に行き、駅前で「手かざし」にひっかかった。話しかけてきた大人の相手を真面目にしていたら、合掌させられ、その男に手かざしの上、祈られるハメになったのだ。
罠にハマった、と思ったが、かといって逃げ出すほどの勇気もなかった。そのまま白昼、人の行き交う駅前で、いたたまれない思いをしたのだった。
今から思えばどうということもないが、当時の子どもだった私にとってはこの経験は恥辱そのものだった。そして、その日以来、私は街でどんなに声をかけられても無視してしまう体になってしまった。
だが、街での声かけは悪いことばかりではない。ポケットティッシュや試供品を配っているときもある。相手によって臨機応変に対応できればいいのだが、無意識のうちに体が強張ってしまうのだからしょうがない。だから、もう何十年も街でティッシュを受け取ったことはない。おそらく死ぬまで変わらないだろう。
いったいどれくらいの損失だろうか? 仮に1日1個として試算すると、最低でも50万円以上は失っている。しかも、配布されるポケットティッシュには通常、有益でお得な情報が記されたミニチラシが入っている。それにより得られた利益も失われたと仮定すると、もう損失は計り知れない。
「手かざし」教の団体を相手どり、裁判を起こして、必ずや損害賠償させてやる———街でティッシュをもらい損ねるたびに、私はいつも誓うのだ。