切り取り報道をつなぎ合わせてできた怪物は、フラフラと街を歩きだした。まわりでは人々が悲鳴をあげ、罵り、嘔吐していた。彼の歩む道の先には線路があり、何本もの電車がけたたましい音を立てて、猛スピードで行き来していた。山手線、京浜東北線、東海道新幹線、西武新宿線、目蒲線……。
彼はまるで吸い寄せられるように線路に近づき、鉄柵をよじ登り、その上に立った。もはやひとつのことしか考えられなかった。轢き殺されてバラバラになって、もとの切り取り報道に戻ろうと、彼は突進する電車に身を投げた。
そのとき、あたたかい光が彼を包んだ。その光はふわりと線路から運び去り、安全なところに着地させた。そして、さらに驚くべきことが起きた。怪物の身体中にある切り取り報道のツギハギが、すっかり消えてしまったのだ。怪物はもはや醜くなかった。その肌はスベスベで、光り輝いていた。首に刺さっていたペンもポトリと落ちて、彼の足元に転がった。
光の中から、不思議な声が聞こえた。「私はファクトチェック機関のスタッフだ……切り取りだというお前の体の報道をひとつひとつファクトチェックしたところ、ぜんぜん切り取りではないことが確認できた……」
「フンガー!」 歓喜の叫びがその口から響き渡った。
そして今、人間となった彼は、愚かな保守政治家たちの歴史修正発言に目を光らせ、新聞をチョキチョキ切り刻んで、スクラップする毎日だ。(おわり)