苦い文学

クマ・サガル LIVE IN TOKYO (7)

クマ・サガルのライブで、私が恐れていたことのひとつは、群衆事故だ。最前列中央の前には黒い低い壁で囲まれた DJ ブースがあった。壁の前はパーテーション・ベルトが設置されており、その前には人ひとり分の隙間があった。

しかし、ライブがはじまり、観客たちの熱狂が高まると、人々は少しづつブースの壁へと押し出されていった。私が立っていたのはこのブースのない端の部分であったが、私も後ろからの人に押されて、ついにはブースの脇の高台に押し上げられた。

そこから、最前列を振り返って見下ろすと、後ろから押された若者たちが、ブースの壁に手を当ててしのいでいるのが見えた。非常に危ない光景だった。フロアには、人の動きを止める柵など設置されていなかったから、もしどこかでパニックが起きて、後方から観客たちが押し寄せてきたら、壁際の人はもうどこにも逃れることはできず、押しつぶされるほかないのだ。

私の場合は、たとえそうなっても、ステージの方に逃げられる、と考えていた。だが、後ろからどんどん人が前に湧いてくるので、もはやそううまく避難できるかもわからなくなった。

そして、もうひとつ私をおののかせていたのは、おしっこだ。5時前に会場に入場する前にトイレに行くチャンスがあったのだが、私はそうせずに会場に入り、自分の場所を確保した。そして、その瞬間から、5時間にわたる私と尿意との戦いが始まった。

はじめは少し音楽を聞いてから、ゆっくり行こうと、と考えていた。だが、メインフロアが開放され、ステージ前の最前列に立ってしまうと、もうできるだけここで聞いていようという気になった(私のカバンの中にはペットボトルがあった)。そして、会場が満員となり、ライブが始まっても、自分はまだトイレに行くチャンスはあると考えていた。しかし、人々が前へ前へと押し寄せてくるようになったとき、私はもうトイレに行くのは無理だと覚悟した(ペットボトルだ!)。

最悪の場合は漏らすことだが、これだけの騒ぎの中なら、バレないような気もした(もしかしたらペットボトルになら……)。

だが、結局のところ、すべて無事に終わった。群衆事故も起きず、おしっこも漏れず、私と観客たちはクマ・サガルの音楽に満足しながら会場を去ったのであった。

今回の公演を事故なく終わらせることのできた運営の人々、会場の人々、観客たち、そして私の膀胱に感謝をして終わりたい。