そして、ついにクマ・サガルとバンドの面々がステージに上がり、ライブが始まった。ここでバンドの編成についてまとめておく。
アコースティック・ギター(クマ・サガル)が中央。その右にフルートのような笛、その隣にもう一本、アコギ。ステージの左側には、エレキのバイオリン(のような弦楽器)とエレキベース。
後列には、中央にシンバルのような楽器。両脇にネパールの伝統楽器のような打楽器を叩くパーカッショニストが2人。総勢8名だった。
その音楽は、すでにリハーサルのところで書いたがフォークなプログレで、メロディも親しみやすい。だが、クマ・サガルたちの音楽についてはもうこれ以上書かない。
なぜならそれどころではなかったからだ。千人を優に超える観客たちの熱狂ぶりがすべてを変えてしまったのだ。絶叫、合唱、騒ぎ声、鋭い口笛、フロアの轟きに圧倒されながら、私はまるでここが新宿ではなく、ネパールの異界に連れ去られたかのような錯覚を何度も味わった。
ここにいるネパール人のほとんどはみな20代だった。もちろんそれより年上もいたが、大多数が若い人々であった。これらの若いネパール人たちは、日本で学んでいる人もいれば、働いている人もいる。異国でそれぞれ苦労しているこれらの人々が、久しぶりに故国のスターを前にして、騒がずにいられようか? ハメを外さずにいられようか?
今の日本のライブでこれ以上盛り上がるものがあるか疑わしかった。私はライブをそれほど経験しているわけではないが、日本のライブだって高齢化していないわけがないのだ。
これらのネパールの若者たちの歌声にかき消されて、クマ・サガルたちの音楽が多少聞き取れなかったとしても、私はまったく気にならなかった。それ込みでライブだ。もはや日本では存在しえないような破壊的な熱狂に立ち会えたことに私は満足を感じた。
とはいえ、これらすべての感嘆すべき経験にもかかわらず私は、ふたつの恐怖におののいていたのだった。