苦い文学

クマ・サガル LIVE IN TOKYO (4)

私は最初のエレベーターの便で、7階の会場に到着した。紙のチケットは持っていなくて不安だったが、オンラインチケット専用のチェックポイントがあって、そこで携帯をかざせば無事に入場することができた。だが、その間に、紙のチケットを持った観客たちはどんどん追い越していった。

会場となる「T2 SHINJUKU」は、これまで私が行ったどのライブ会場とも違っていた。「ナイトクラブ」ということだが、会場の半分強がメインフロアになっていて、奥のほうに低い壁で囲まれた DJ ブースがある。その向こうにステージがあって、バンドがリハをしていた。私たちはといえば、メインフロアの外側に立たされていて、そこから先に入ることはできなかった。メインフロアの広い空間の左右には、コの字型の大きなシートが3つづつ設置されている。これが1万5千円の「VIPシート」だろうか? 数名の人が座っていた。

メインフロアの外側の私たちがいるところに別のブースがあり、そこにはクマ・サガルがいた。マイクを片手に、サウンドチェックをしている。私はその横に立ち、はるか向こうのリハーサルの演奏を聴いていた。ネパールの伝統的な音楽ということだが、聴いていると、フォークのプログレといった感じで、とても良い。

やがて開演時間の5時になった。クマ・サガルがステージに向かい、その中央に立つ。観客たちから歓声が上がる。何も言わずに歌い始める。だが照明も付かずステージは薄暗いままだ。

しかも、ステージから私たちのいる場所まで広大なメインフロアが広がっている。例の「VIP シート」には人もほとんど座っていず、フロア中ががらんとしている。そんな中、演奏が始まったのだ。

私はさすがに呆れた。観客をメインフロアにも入れるべきではないのか? そう思っていると、メインフロアと私たちを隔てていたベルトのバリケードが取り払われた。私たちは演奏中のステージに向けて突進する。私はうまく最前列、DJ ブースの脇に入り込むことができた。

クマ・サガルとバンドは暗いステージで演奏を続けていた。すると、20分ほどで演奏を止めてしまった。撤収を始める。彼らはステージを降り、満員の観客たちの中を押し合いへし合いしながら、奥の方に消えていった。

これで終わりなのだろうか? いや、ようやく気がついたのだが、これもリハーサルだったのだ。開演はチケットに書かれていた5時ではなかった。結局、私たちは6時まで待った。その間に、会場には次から次へと観客が流れ込んできた。