今年の2月末から2週間ほど、チュニジアのチュニスに滞在したとき、ベルベル語の話者に会って、その言葉を教えてもらう機会を得た。
ベルベル語というのは、かつて地中海世界の南側(つまりエジプトや北アフリカ、サハラ)で広く話されていた言語で、現在もモロッコやアルジェリア、ニジェールやマリではかなりの話者がいる。しかし、チュニジアではアラブ化が進み、南部の一部の地域とジェルバ島にわずかに話者がいるのみだ。
教えてくれたのは、チュニス在住の60代の男性だ。ベルベル語にもいろいろあるが、この人のベルベル語は、南部のとある村の方言だ。とても親切な方で、私はずいぶん多くのことを学ぶことができた。そのうちのひとつが、「目」に関するものだ。
「目」は、この男性のベルベル語では ṯīṭ(スィート)という。複数形は ṯīṭāwīn(スィーターウィーン)だ。彼がいうには、この複数形が、チュニジア南部の有名な町 タターウィーン(taṭāwīn)の由来だそうだ。
チュニジアの他のベルベル語では ṯ は t になることが多いので、地名のタターウィーンがベルベル語の ṯīṭāwīn もしくは tīṭāwīn に関係しているというのはありそうな話だ。
さて、このタターウィーンは、世界的な有名な場所でもある。チュニジア南部はスターウォーズの撮影の地として知られるが、主要な舞台のひとつである惑星タトゥイーン(Tatooine)は、この地名からきている。
惑星タトゥイーンは砂漠ばかりの厳しい星だ。これは2つの太陽があるためで、とにかく暑さが苛烈なのだ。この惑星に移住してきた人類には、空に浮かぶ2つの太陽がまるで両の目のように見えた。そこから、目の複数形でこの星を呼ぶようになったと伝えられる。