苦い文学

危険な川遊び

演歌でも有名な「矢切の渡し」は東京の柴又と千葉の松戸をつなぐ江戸川唯一の渡しだ。ちなみに演歌では「やぎり」だが地名は「やきり」だ。

柴又といえば「男はつらいよ」だが、その1作目の冒頭で、故郷に帰還する車寅次郎が乗っているのがこの渡し舟だ。

渡賃は大人200円(「男はつらいよ」当時は大人30円)。夏期は毎日運行していて、冬期は休日だけ、荒天の場合は欠航だそうだ。乗り場は帝釈天の近くだ。だが松戸側は松戸駅から遠く、バスを使うしかない。

この間、帝釈天に行ったとき、私はこの矢切の渡しに乗ってみることにした。

江戸川の乗り場に行くとすでに何人かの乗客が並んで待っていた。舟は松戸側の対岸でちょうど人を下ろしたばかりのようで、しばらくするとゆっくりこちら側に戻ってきた。舟が桟橋に着くと、船頭の男性が、明るいがクセのある声で乗客たちに声をかけ、次々と乗せていった。渡賃はこの時に支払う。

舟が岸を離れ、対岸に向かう。すると、予想外のことが起こった。船頭の方がそのクセのある声で、独自の漫談を始めたのだ。私はその漫談を聞いて、ヒヤリとした。

江戸川の流れは静かで、風も穏やかだったが、どんな激流川下りよりもハラハラさせられた。

機会があれば、ぜひみなさんも体験してほしい。