毎日することがないので、義太夫一日体験教室に行ってみることにした。義太夫節は「語り」と「三味線」からなるが、それぞれ90分のコースがある。私はそのどちらにも申し込んだ。2月のことだ。
3月の終わりに、案内のメールが送られてきた。私はそのメールを見て驚き、己の迂闊さを嘆いた。
「正座をしていただきますので、脚に負担のかからない服装でお越し下さい」
正座のことをすっかり忘れていたのだ。そのような座り方は自分の人生から追放したはずだったのだが……と悔やんだがもう遅い。正座して1時間半×2受講しなければならない、そう思うだけで緊張してきた。
しかし、メールを読み進めると、こんな一言にでくわした。「正座器などをご使用いただいても結構です」
これだ。
さいわい、体験教室にまでまだ三週間あったので、私はさっそく Amazon で、正座器というものを探してみた。私と同じ恐怖を抱いている人はたくさんいるようで、いろいろな種類があった。なかでも、折りたたみ式で、お尻をしっかり持ち上げてくれるタイプのものがよさそうだった。私はすぐにそれを注文した。(つづく)