苦い文学

決してやりなおせない社会

「私たちはやりなおせる社会を作りたい!」

そんな一面広告が全国各紙に掲載された。

「日本は、やりなおせる社会でなくてはなりません。人間は誰しも過ちを犯すものです。たった一度の過ちで、その人の人生が否定されることなどあってはいけないし、そうした人にも、もう一度自分の人生を立て直すチャンスがあって当然ではないでしょうか。やりなおせる社会は、誰もが許される寛容な社会なのです」

この意見広告の賛同者には、錚々たる著名人の名が連ねられていた。政治家、芸能人、スポーツ選手、作家に YouTuber……。

この広告からしばらくして、二つの出来事が起きた。ひとつは性暴力でテレビ界を追放された芸能人が、謝罪と苦悩の告白とともに、復帰したこと。メディアは、つまり、オールドもおニューも、これぞ「やりなおせる社会」だと称賛した。

もうひとつの出来事は、この芸能人の被害者のひとりが、ネットに動画をあげて、「私にもやりなおしのチャンスを与えてほしい」と語ったことだ。すると「なんとずうずうしいのだろう!」「いまさら蒸し返すとは金目当てか?」「やりなおしをしようとしている人の邪魔をするとは!」と日本中から激しい非難の声が上がった。

炎上はしばらく続き、そのうちにその人は死んでしまった。

例の芸能人はこのニュースを聞くと「日本はまだまだやりなおせる社会ではないのです。私はやりなおせる社会を作るために次の選挙に出ます」と語り、再び称賛の的となっている。