私も無職で、今なお就職できずにいるが、同じような境遇の友人がいた。私たちは互いに励まし合い、せっせと無駄に就職の書類を送っていたのだが、あるとき、彼が私にこう打ち明けたのだった。
「就職できないのは、実は刺青があるからなんだ……」
私は驚いた。おとなしい彼に刺青が入っているなど想像もできなかったからだ。「え、それは……」と絶句していると彼はいった。
「いや、ないよ、刺青なんか」
「なんだよ。びっくりさせるなよ!」 私は笑ったが、彼は真面目な顔つきでこういった。
「けど、そうじゃなきゃ、どこに行っても拒絶されることの説明がつかないよ……だからさ、もしかしたら、と思ったんだ」
私には彼の苦しみが痛いほどわかった。できるだけ励みなるようなことを言おうと頑張ったが、彼はどことなく上の空で聞いているようだった。
それからしばらくして、彼が、近所のクリニックに押しかけて、大騒ぎを起こしたと聞いた。刺青を除去してくれと、しきりに訴えたのだ。もちろん、彼には刺青などないのだから、消すことなどできない。それでも、消してくれと言い張って動かないので、ついには警察を呼ぶまでになったという。
なんとなくだが、彼が何を消そうとしていたか、私にはわかるような気がする。