苦い文学

ガハハとウヒャヒャのいる店

居酒屋で飲むグループはたいてい二つに分けられる。ガハハ群と、ウヒャヒャ群だ。

どちらの背広を着た人たちが多い。おそらく、ネクタイに締め付けられていた喉を急にアルコールに晒すことによって発生する痙攣を、うまく利用しているのだろう。

このガハハとウヒャヒャにどんな機能があるかというと、ナワバリの誇示だ。「自分たちはこんなにガハハだぞ」「いや俺たちのほうのウヒャヒャにはかなうまい」 居酒屋内では、客のグループがそんなふうに競い合っているのが観察されている。

あるとき、いつも一人での酒を飲む私が、たまたまガハハ群とウヒャヒャ群の間に座ることになった。ガハハとウヒャヒャがずっと私の左右に聳え立っていた。まるで険しい山のようだった。私は酒を味わいながら、自然豊かなその山々を見つめていた。

そうした経験もあり、私もガハハとウヒャヒャをやりたくなった。ガハハとウヒャヒャに守られて、酒を飲んでみたくなったのだ。だが、どうやっても私の喉は痙攣してくれなかった。もしかしたらなにかが自分には欠けているのかもしれない、と悔しくなった。私はガハハとウヒャヒャの世界から締め出されていたのだ。

だが、私のような人はたくさんいるものらしい。「ガハハとウヒャヒャのいる店」という居酒屋では、客が希望すれば、ガハハかウヒャヒャの音声を発するスピーカーを持ってきてくれる。毎晩の酒宴がもう楽しみでしかたがない。