苦い文学

真実を報じないレストラン

久しぶりに街に出たので、何回か行ったことのあるハンバーグの店に行ってお昼を食べることにした。店の前に行くと、人が集まって騒然としているのが目に入った。近寄って人垣越しに見ると、ひとりの男が店の前に立ち塞がるように立ち、叫んでいるのだった。

「このレストランはとんでもない店だ!」 そう男は怒鳴った。「客に偏ったものを食べさせているぞ! みなさん! 見てください! これはこのレストランが調理しない料理です!」

男は手に持っていたボードを掲げた。それは山菜そばの写真だった。「このレストランの偏向調理を許すな!」

そのとき、警察官が数名駆けつけてきた。警察官たちが近づくと、男はよせばいいのにボードを投げつけた。たちまち男は組み伏せられ、そのままどこかに連れて行かれた。

店の前は再び日常に戻った。集まっていた人々も立ち去っていったが、何人かは私と同じように店に入った。私たちはなにごともなかったかのようにハンバーグを食べた。誰かが「山菜そばなら自分で作ればいいのに」と言った。それから別の声が聞こえた。「あの男、今頃、取調室で山菜そばを食べているかもしれないぞ!」 さらに誰かがこう言った。「そういえば、あの顔、なんとなく山菜そばに似ていたような……」

私はこれらの言葉に笑いを堪えるのに苦労したが、このとき私たちは知らなかったのだ。やがてあらゆる SNS が「#山菜そば」で埋め尽くされることになろうとは。