若い警察官についていくと、彼は署長室の向かいにある小部屋に入った。中のデスクに座り、私が署名した紙を見ながら、パソコンに入力を始めた。
つまり、署長が書き、私が署名した陳述書(のようなもの)をもとに、盗難証明書を作成しているのだ。小部屋の入り口に立っていた私が、入ってもいいかと聞くと、どうぞ、と答えた。
その部屋には、デスクの他に大きなテーブルがあった。テーブルの上にはA4の書類箱が山のように積まれていて、今にも崩れそうだ。書類箱には「2007」と書かれたものがあった。少なくとも、その年以降、この署で扱った書類が保管されている、つまり、2010〜2011年のジャスミン革命の時期のものもある、ということだ。
この警察署のあるハビブ・ブルギバ通りはチュニスの中心だから、私は詳しくはわからないけれど、革命当時は大きなデモが行われていたはずだ。そして、私が目の前にしている書類の山の中には、その時の記録も残されているかもしれない。
そんなことを考えていると興奮してきたが、怪しまれては困るので、私はチラと見るだけにとどめておいた。警察官は入力を終え、プリンターで印刷した。
警察官は私を再び署長のいる部屋に連れて行き、彼の机の上に盗難証明書を置いて立ち去った。署長は女性の相談者の対応にかかりきりで、書類に目もくれない。私は、あと一歩だ、と思いながら、待つ。署長は女性との話が済むと、盗難証明書にスタンプを押し、自署をした。
「アラビア語だから、日本で翻訳してもらうんだな!」
私がその紙を手に書を出たのは、11時半だった。