苦い文学

警察署までの道

チュニスの大通りブルギバ通りには、警察官や兵士がたくさんいる。交通整理係もいれば、ものものしく武装した人もいる。警察署はどこか尋ねるにあたり、私はもっとも怖そうではない若い女性の警察官を選んだ(チュニジアでは女性の警察官もたくさん働いている)。

その女性警官は、私が泊まっていたホテルの前で交通整理にあたっていたのだが、私の問いに、指で警察署を示してみせた。大通りを入ってすぐのところにあるというのだ。警察署がこんなに近くにあるのに盗みとはヤツめ大胆な……とぶつぶつ言いながら、私は警察署に向かった。

警察署に足を踏み入れると、ベンチのある部屋があり、そこに一人のジャンパー姿の男が座っていた。そして、待合室の右手に扉のない部屋があった。覗き込むとパソコンの置かれた小さなデスクにやはりジャンパー姿の男が座って何やら作業をしていた。鋭い目つきで私を一瞥した。

「ハハーン」と私は思った。「これは韓国型だな」 つまり、チュニジアも韓国と同じく、警官は特別な任務がないかぎり、地味な色のジャンパーを着用しているもようだ。

私は部屋の入り口に立ちその男性に「お金を盗まれました」といった。すると、何も言わずに待合室の方を指す。ああ、まずはこっちの人にか、と思い、私は最初の部屋に戻り、そこに座っているジャンパーの男に声をかけた。「お金を盗まれたのですが……」

すると、その男は迷惑そうな顔をした。ただの待っている人だった。