異国の大通りを歩いていたら、数名の日本人に出会った。日本人たちは、道端に立ち、行き交う人々を真剣な面持ちで見つめているのだった。そのうちのひとりが叫んだ。
「あっ、あれあれ、あの男性、見事ですねえ!」
「ほうほう、でどんな?」と別のひとりが尋ねると、叫んだ方は「こうでした!」と手をブラリとさせて身をよじってみせた。すると誰かが言った。「いや、もうちょっと肩が下がって、脇を引き締めていた」
「なるほどなるほど、ではそれでもう一度お願いします」と別のひとりがビデオを向けて、その「フォーム」を記録しはじめた。
私は異国で異常なふるまいをするこれらの同胞が気になって、思い切って尋ねてみた。するとリーダーらしき男性が答えた。
「私たちは将来の日本のための調査をしているのです。現在、日本では深刻な少ゴミ箱化が進んでおり、じきに街中からすべてのゴミ箱が消えることでしょう。私たちは、この本格的な無ゴミ箱社会の到来に備えて、どのようにしたら日本人がさりげなく道でゴミを捨てられるようになるかを研究中なのです」
そのとき、誰かが声を上げた。「ほら、見ましたか! あの男性! タバコを口に持っていくその瞬間に、脇から紙屑がはらりと落ちました」
「見ました! 実にスマートなポイ捨てぶりでした!」「忘れないうちに記録記録!」
うれしげに騒ぐ仲間たちにリーダーが微笑みながら私に言った。「私たちはこれらの貴重なデータを持ち帰って、帰国後、日本初の『ポイ捨て研修』を東京で開催する予定です。ここでお会いしたのもなにかの縁でしょう。会の案内を差し上げますから、どうぞご連絡ください」
私はそのリーフレットをありがたく頂戴すると、お辞儀をして立ち去った。そして、角を曲がったところで、放り捨てた。