苦い文学

最強のパスポート

彼が日本国民としてもっとも誇らしいのは海外旅行に行くときだ。なぜなら彼のパスポートは世界最強だからだ。

この最高のパスポート片手に空港内を颯爽と歩くとき、彼は周囲の弱パスポート保持者たちの羨望のまなざしに焼かれそうだ。

それもそのはずこのパスポートを手にした者は世界中のありとあらゆる国を観光することができるのだ。

外交の勝利と平和の賜物だ。赤く燦然と輝いている。

最高だというのは、誰か偉い人や強者がそう決めたのではない。世界の国々が選んだベストワンなのだ。世界の仲間ナンバーワンだ。

このパスポートを持っているだけで彼の懐はあったかだ。まるでカイロのようなのだ。

だが、最近彼にとってショッキングなことが起きた。シンガポール人が最強パスポートの座を奪ったのだ。

それ以来、彼は空港でシンガポール人を見かけると、その眼前にバチーンとパスポートを叩きつける。そのシンガポール人が自分のパスポートで、彼のをひっくりかえすことができるか挑戦するのだ!

バチーン! そんな音が今日も空港で響き渡っている。