数年前から、私は満員電車がイヤになった。息苦しくなって逃げたくなるのだ。もう乗ることを考えただけでも苦しくなる。精神的なものかもしれないが、体の衰えもあるのかもしれない。もともと私は蒲柳の質で、モヤシっ子世代だが、そのモヤシもどうやら萎びてきたようなのだ。
このあいだ、ヒマつぶしに健康診断に行った。検査のなかに肺活量の検査もあった。肺の大きさや息を吐く勢いなどを調べる検査だ。私はマウスピースを咥え、看護師の指示に従い、息を吸ったり吐いたりした。思いっきり吐けというので、限界まで吐いた。
2種類の検査をし、数値がモニターに表示された。看護師は、どの数値も基準より低いと教えてくれた。肺の機能に問題があるのだ。
「だからか」と私は思った。「満員電車で苦しくなるのは」 肺に何か異常があることは心配だけど、息苦しさの原因がわかったことのほうがうれしかった。
「数値が低いです」と心配そうな声で告げる看護師に、私は深刻な表情で答えた。「ええ、ずっと息苦しいのです」
看護師は、私からマウスピースを取り上げ、チューブとの接続部分を締めなおした。「もう一度お願いします」
も一度やってみた結果、数値は正常だった。