苦い文学

中居くん式

平和を愛するトランプ大統領は、ロシアとウクライナの和平が遅々として進まないのに苛立っていた。

「問題はウクライナのゼレンスキーじゃ」と大統領はため息をついた。「ヨーロッパ諸国抜きの和平交渉を彼が拒絶しているかぎり、平和は実現せぬ」

この慈悲深き大統領の心痛を見逃さなかったのが、頓知者のイーロン・マスクだ。マスクが大統領に心配そうに声をかけると、大統領は悩みの種を打ち明けた。

マスクはただちに答えた。「閣下、それならば、妙案がございます」 そして大統領の耳に口を寄せるとなにやらゴニョゴニョゴニョ。聞くや、大統領の顔はたちまち晴れやかに転ずる。「よきかな、よきかな!」

さっそくトランプ大統領は和平会議の開催をゼレンスキーに通知した。「ウクライナが望む通り、和平会議に、アメリカとロシアだけでなく、フランス・ドイツ・イギリスなど全ヨーロッパ諸国の参加を認める」

ゼレンスキーに拒絶する理由はなかった。ただちにアメリカに飛び、ワシントンにある高級ホテルに向かう。和平会議の会場は最上階にある大きな広間だ。そこに通されたゼレンスキー、あっけに取られる。各国首脳が集まっていると思いきや、なんとそこにいたのはトランプ大統領だけ。

「フランスやドイツは?」

トランプ大統領が笑いながら言った。「全ヨーロッパ諸国がドタキャンしたのだ。大雨だと言ってな!」

騙されたことに気がついたゼレンスキー。が、そのとき、大統領の背後から、不敵な笑みを浮かべたプーチンが現れ、着ていたバスローブを脱ぎながら彼のほうへと近づく……

こんなふうにして、ついに大統領はウクライナを交渉のベッドに就かせ、大統領とプーチンの思うがままの「和平」をあれやこれや実現したのであった。

コト終わって、大統領はイーロン・マスクを呼び出し、その知恵と頓知を賞賛した。

「マスクよ、このような見事な計略をいったいどのようにして思いついたのじゃ」

「は、閣下、じつはこの計略を、X で日本人から教えられたのです。なんでも日本では中居式と呼ばれている忍者の奇策とのこと」

「ほほう、それでは日本の関税をチイとばかり下げてやらねばなるまいな! ウワハハハハハ!」

「いかにも、ウヒヒヒヒヒヒ!」

「ウワハハハ、ウワハハハ、ウワッハハハハ…………」

と、大統領とイーロン・マスクが X(元ツイッター)でやり取りした記録が残されているという。