苦い文学

万博の汚い目玉

このままだと大阪万博は失敗に終わる——

時の流れのある瞬間に、為政者たちはそう考えた。なぜなら、鳴物入りで発表された「空飛ぶ車」はタコの糸が切れたのかどこかに飛んで行ってしまった。頼みの綱のアンバサダーも天岩戸にお隠れになったっきり、どんな芸人たちが騒いでもいっこうに出てくる気配はない。パビリオンは小粒になるいっぽうだし、チケットはまったく捌けなかった。

為政者たちがぶち上げた万博の目玉がことごとく消えてしまっているのだ。

「たぶん」と人々は考えた。「目玉はすべてミャクミャクに行ってしまったのだろう」

為政者たちは対策会議を開いた。「我々は新たなメダ……いや展示を企画しなくてはならない」

「そうだ」と別の為政者。「世界中がアッというものでなくてはならない」「うむ、それこそ誰も見たことがないものがいい」

別の為政者が口を挟んだ。「それだけではダメだ。日本人が誇りに思えるようなものでなくてはならない」

為政者たちの指令はただちに万博関係者に下され、やがて為政者の望み通りのものが完成した。

万博の開会式で、為政者は胸を張って世界中に告げた。

「みなさん! 私たちは日本で実現不可能なものをこの万博に実現することができました。世界中の誰もが『こんなものが日本にあるとは!』と驚くことでしょう。さあ、この誇るべき展示をご覧ください!」

幕が取り除かれると、そこには、これ以上ないほど汚く臭いトイレがあった。