2年ぐらい前にここで「左右盲」というフィクションを書いたが、これはある程度は本当のことで、私は右と左がわからない。
どういうことかというと、とっさに左手をあげてくださいと言われたら、すぐにはできない。箸を持つ手はどっちだっけ、といったん考えてから、おそるおそるあげるのだ。
とはいえ、左右がわからなくても通常の生活では困らない。ただ、視力検査は別だ。輪っかの開口部がはっきり見えていても、それが右なのか左なのかがわからない。なので、眉根を寄せて「ちょっと見にくいな……」なんてフリで時間稼ぎをして、必死に考える。
先日、バリウム検査をしたときも大変だった。動く検査台にしがみつきながら、矢継ぎ早に繰り出される「右に腰を捻って」とか「左に向いて」とかの指示に対応しなくてはならない。考える暇もなかったので、初めのうちは混乱してしまい、何度も反対側の方を向いてしまった。
視力検査でも、バリウム検査でも、「こっち・そっち」「手前・あっち」とかなら私は間違わない。なのでそうしたいが、恥ずかしくてできない。
私のような人は多くはないだろうが、いないわけではない。なので、検査の時などに「私は左右がわかりません」というシールがあったらいいと思う。最近はいろいろ事情のある人に配慮する取り組みが広まっているので、突飛な話ではないだろう。
もっとも、そのシールについて「右胸に貼ること」とかいう決まりがあったら、私たちはもうそこからわからなくて、結局丸めて捨ててしまうにちがいない。