苦い文学

血の挑発

腕の肘の裏側が肉厚なのか、血管がずれたり捻れたりしているのか、世の中には、採血のときに血管がわかりにくい人がいる。私もそのひとりだが、そのせいで採血はいつもストレスだ。

採血者は、腕に巻いたゴムバンドをキュッと締め直したり、アルコール綿で皮膚を擦ったり、揉んでみたりして、血管を浮かび上がらせようとする。される方としてはわからないが、浮かび上がってくれと念ずるばかりだ。やがて、採血者は意を決して、エイヤッと刺す。それでうまくいけばいいのだが、「違う、もう一度」なんてこともある。刺される方としてはたまったものではない。

そんなわけで、私は、しばらく前から、採血時に「いつも血管が見つからない、と言われます」とあらかじめ伝えるようになった。そうしたほうが心構えができるのでは、と思ったからだ。だが、最近になって気がついた。受け取り方によっては、その言葉はむしろこう響くことだってあるのではないか。

「フフフ、君だって私の血管を見つけることはできないだろうよ……」

こう挑発されて頭に血が上った採血者が、私の腕を針でめった刺しにしないとどうしていえようか。