苦い文学

あいみょんと「の」の逆襲

「おいしいのパン」
「強いの力」
「助けるの人」

「これらはすべて、日本語学習者がしがちな誤用、つまり間違いです」と、日本語教師養成講座の教師は、受講生たちにホワイトボードの板書を示しながら説明を始めた。「このように余計な『の』を挿入してしまうことがよくあるのです。どの国の学習者もする誤用ですが、とくに中国人に多いように思います。しかも、上級になっても繰り返す人がいます」

教師はこの助詞「の」について説明を始めた。助詞の「の」の前後には原則的に名詞が来ること。したがって、「おいしい」や「強い」といった形容詞、「助ける」といった動詞の後には続かないこと。「の」は中国語の「的」と似ているため、一説によれば、その影響でよく余計な「の」を入れてしまうということ……。

ひととおり話し終わると、教師は受講生たちに質問がないか尋ねた。すると手が上がった。

「先生、『の』を変なところに挿入してしまうのは外国人特有ですか?」

「特有、というとニュアンスが異なりますが、学習者にわりによく見られる誤用です」

「とすると、あいみょんは外国人ですか?」

「あいみょん? あの歌手の?」

「ええ」

「それが今の話とどうつながっているか、ちょっとわかりませんが……どういうことでしょうか」

「いえ、あの、『マリーゴールド』なんですけど、『麦わらの帽子』の『の』って、あれ要りますか? ……」