長い間、彼は自分の命をないがしろにしてきた。いつ死んでもいいと思っていたのだ。天才は早く死ぬものさ、そんなふうにうそぶいて、命にしがみつく小市民たちを嘲笑っていた。
だが、彼にも、自分が天才でもなんでもなく、それどころか、小市民以下ですらあることに気づかされるときが来た。そのとき以来、彼のたったひとつの希望は、長生きすることになった。あらゆることに負け続けたこの負け犬は、寿命の長さで勝つという、人生のラストチャンスに賭けたのだった。
彼は長生き健康法ならなんでも実践した。命を伸ばすのに益ありと聞けば、どんな遠くにも足を運んだ。どんなまずいものでも食べた。どんなサプリメントも、どんな薬品も、彼が試さないものはなかった。長生きに関するどんな些細な情報も、彼の研ぎ澄まされた注意から逃れることはできなかった。
あるとき、街を歩いていた彼の耳に「俺はインモータル……」という言葉が飛び込んできた。長生きのために英語の文献すら目を通していた彼はすぐに気がついた。「インモータル」とは不死のことだ。「俺は不死だと? これは究極の長生きじゃないか……そうだ、今この時代、不死が実現しても不思議ではない。俺も不死を目指す!」
彼は歩みを止め、その声がしたほうを振り向いた。青白い顔の痩せた男がいた。時代を超越した謎めいた雰囲気が漂っていた。「もしや、現代のサンジェルマン伯爵では?」 彼の心は高鳴った。
痩せた男は、そんな彼に気づかず、自分の隣に立つ連れに向かって言った。「そう、俺はいつも……胃もたれ」