苦い文学

新たな過ち

駅前を歩いていたら、スーツにオレンジ色のタスキをかけた男が立っているのを見かけた。その男の両脇にはオレンジ色の上着の男たちがいて、日本の旗を掲げているのだった。中央の男の演説が耳に入ってきた。

……核兵器の脅威が今、日本を脅かしています! 私たちは日本が直ちに核を保有すべきだと考えています。核を抑止するのは核、これが真実です。ですが、これは現状では難しいのです。

それは、非核三原則があるからです。なので、ここで、私たちは今できることを考えなくてはなりません。非核三原則のもと、核の脅威に対抗するにはどうしたらよいか、と。

たったひとつ答えがあります。それは、日本人を核に対して強靭化することです。核に負けない体を作ることです。

不可能でしょうか? いや、日本人にはできる、きっとできます。

証拠があります。海苔です! ある科学的調査によると、この海苔を消化できるのは日本人だけなのだそうです。つまり、日本人はこの滋味豊富な海苔を消化できるように胃腸を強靭化してきたのです。

海苔にできるのならば、核にもできるのではないでしょうか? そう、日本人なら、核を消化できる頑健な胃腸を作ることなど簡単なのです。

核煮、核重、核揚げ、核ラーメン、核の軍艦、核巻き、核のおひたし……。これらの核料理に舌鼓を打つ日本人を見たら、北朝鮮も中国もロシアもアメリカも尻尾を巻いて逃げ出すことでしょう!

……この演説を聞きながら私は黙って立ち去った。たとえ過ちを繰り返さないとしても、新たな過ちがこう出てくるようでは、安らかに眠ることなどできまいと思いつつ。

「安らかに眠って下さい、過ちは繰返しませぬから……」