苦い文学

お餅の事故

「フグの卵巣より危険な食べ物を知っていますか」と博士は問いかけた。「ええ、お分かりですね。それはお餅です。フグの毒で亡くなる人より、お餅の事故で亡くなる人のほうがはるかに多いのです。餅は危険だ! 餅を禁止しろ! そう言うのは簡単です。ですが、お餅は日本の大切な文化です。お餅がなくなることは、この日本を破壊することなのです」

客として招待された私たちはじっと老博士の言葉を聞いていた。

「なんとかしなくては、この状況を変えなくては、そんなふうに考えていた私は、あるとき、ひらめいたのです。もしも人間の摂取器官が、お餅を摂取しても窒息しないような構造だったら、こんな事故など起きないのではないか、と。これが研究の出発点となりました。そして、今日、みなさんにおいで願ったのは、お餅を食べても絶対に窒息しない新しい日本人の誕生をともに祝うためなのです」

期待と多少の恐怖にざわめく私たちの前で博士は叫んだ。

「さあ、出てくるがよい!」

博士の後で凄まじい音がして、壁が崩れた。そして、見るも恐ろしい生物が現れ出たのだった。私たちは悲鳴を上げることすらできなかった。博士はポケットから餅を取り出した。「みなさん、見てください!」

博士の手に乗った餅を前にして、その恐ろしい生物は口を開いた。だが、それはなんという口であったろう。四方に裂けたその口の中には、無数の牙がびっしりと生えていた。そして、その牙の間には、蛇とナメクジの合成生物のような器官がおぞましくも密生し、うごめいているのだった。それを見るや、誰もが嘔吐を始め、ご婦人方は失神してバタバタと倒れた。

その恐怖の生物は耳を破壊するような異常な絶叫を上げるや、餅ばかりでなく老博士を飲み込んだ。そして、血にまみれた翼を広げると、お餅の事故におののく私たちを置き去りにして、空のどこかに飛んでいった。