苦い文学

うさぎとかめ

私の人生は、まさに恥辱と侮蔑そのもので、喜びや歓喜とは無縁の寂しいものだ。生きる価値があるものかわからない。だがそれでも生きている。

もっとも、人生を終わらせたいとき、つまり、どこかの高みから身を投げたいときもある。そんなとき、私はいつもある物語を思い出す。その物語には不思議と私に命を捨てさせない力があるのだ。

それは「うさぎとかめ」という物語だ。

うさぎとかめがかけっこの勝負をするのだ。うさぎは足が速いからどんどん先に行ってしまう。かめはノロマでぐずぐず歩いている。うさぎは勝ちを確信して、途中で一休みして眠ってしまう。その間にかめは追い抜き、うさぎより先にゴールしてしまうのだ。

元気が出る。勇気が出る。そして、もう少し踏ん張ってみようという気になる。この物語にはそんな力がある。

うさぎはこの物語のために負け、その結果、この物語が語られるかぎり、敗者という汚名を着せられることとなったのだ。だが、この汚名を苦にして、うさぎが滅びたという話は聞かない。最大の恥辱も、うさぎを打ちのめすことはできなかったのだ。

同じく敗者であるこの私も、打ちのめされぬものであり続けたいと思う。