苦い文学

新しいサービス(3)

スタッフの指示にしたがい Apple Store の2階に行くと、そこには別のスタッフが立っていた。私を見ると近寄ってきて柔らかい口調で用件を聞いた。

「修理を待っている人専用の待合室に行きたいのですが……」

スタッフは私の名前を聞き、iPad を操作した。「こちらにどうぞ」

ついていくと、エレベーターの前に出た。だが、通常のエレベーターと異なり、ボタンがないのだった。スタッフは「このままお待ちいただければ、自然に降りてきます」と告げて立ち去った。

しばらく待っていると銀色の扉が静かに開いた。私は箱の中に入った。壁は薄い銅色のパネルで覆われていて、まるでホテルのエレベーターのようだった。だが、壁面に手すりがあるだけで、ボタンも緊急停止装置もインターホンも何もなかった。いや、ただ大きな Apple のロゴだけが壁の中央に配されていた。

あちこち見回していると、開いたときと同じように静かに閉まった。そして、機械の囁きと体の感覚の変化から、上昇しはじめたのを知った。上昇は続いたが、扉の脇にも上部にもいかなる表示もないため、いったい何階を通過しようとしているのかわからなかった。閉じこめられ不安が忍び寄ってきた。エレベーターが停止し、扉が開いた。