音に敏感なタチなのかどうかわからないが、外出するときはいつもノイズキャンセリングのイヤホンをしている。一度、イヤホンを忘れて外に出たことがあったが、不安になって取りに戻ったぐらいだ。世界はうるさく耳障りで煩わしいのだ。
外界の音が聞こえないのでは危ないではないかとか、つけっぱなしでは耳によくないとか、外さないのは相手に失礼ではないかとかのうるさい小言も、ノイキャンのスイッチを入れればまったく聞こえない。
ところで、このノイキャンを憎んでいる人々がいる。はっきり言えば駅員たちだ。自分たちの自慢のアナウンスがキャンセルされるのがどうも気に食わないらしいのだ。自分の電車はいくらでもキャンセルするのにだ。だから、駅員たちは訓練の末(かどうかは知らないが)、新しい発声法を身につけた。ノイズキャンセルキャンセル話法だ。
このノイキャンキャン声で車内アナウンスされると、キャンセル機能が耳に築き上げた防壁は簡単に崩壊してしまう。駅員の声が私たちの耳にダイレクトに突き刺さってくるのだ。私たちは悲鳴をあげてのたうち回る。電車の吊り革に両手を縛りつける(そうしないと、自分の耳をもぎ取ってしまうのだ)。
私たちはオーディオ売り場に飛んでいき、新しいイヤホンの開発をお願いする。ノイズキャンセルキャンセルキャンセル機能搭載のイヤホンを早く! ……だが、私たちがこのノイキャンキャンキャン・イヤホンを手に入れるころには、駅員たちはすでにノイキャンキャンキャンキャン声でアナウンスを始めているのだ!
いったいいつまでこの戦いは続くのだろうか。それはさておき、一般の乗客は私たちのこの戦いをキャンキャンキャンキャンうるさいと思っていることだろう。