苦い文学

新しいサービス(2)

Apple Store に駆け込むと、先ほどのスタッフが私を見つけた。私はどうやらひどい顔つきだったらしい。「どうされました」とスタッフが心配そうに尋ねてきた。

「いや、ちょっと戻ってきました。なんとなくね……」

「ああ、そうですか。お客様の中にはいらっしゃるのです。iPhone を持たずに外に出ると不安だと。ですので……」

「いえ、そんな、不安だなんて。することもないので……まあ店内で待たせてもらいますよ」

すると、スタッフはいかにも申し訳ないという顔つきをした。「ちょうどクリスマスシーズンでして、お客様が多数来店されております。お客様にとって不愉快なこともあろうかと思いますが……」

入り口のドアを見ると、次々と客が入ってくるのだった。製品が置いてあるどのテーブルも人だかりができていた。店内の中央にスツールがいくつか置かれていたが、空きなどひとつもないのだった。私は思わずため息をついてしまった。

「申し訳ありません。ですが、お客様にご提案があります。上階に、修理を待っているお客様専用の待合室がございます。そこでお待ちいただいてはどうでしょうか」

「そんなものがあるの。なら、そこにしますよ」

「では、そのようにいたします」とスタッフは iPad を取り出した。「えーと、お客様のお名前は」 私は名前を告げた。

「少し面倒で申し訳ないのですが、待合室の利用にあたり、手続きがあって」と iPad の画面を慣れた手つきで操作して、私の前に差し出した。

そこにはなにか規約類が書かれていた。いつものように読まずに下にスクロールし、「同意します」にチェックを入れる。

「ではご署名を」 画面に現れた空白欄に私は指で署名を書いた。汚い字になってしまったが、しょうがなかった。

「以上です。お2階にどうぞ」とスタッフは階段を指差した。