最近は終活のことばかり考えている。
私の人生はなんの価値もなく、侮蔑と嘲弄に満ちていた。だからこそ、終わりだけは、見苦しくないようにしたい、そんなふうに思ったのだ。
とはいえ、私は終活についてなにも知らなかった。人生の最後のための事前準備というが、いったいなにをすればいいのだろうか。私は、ネットで終活アドバイザーというものを見つけた。実際に相談に行くと、終活に関するごく基本的な事柄にも快く答えてくれた。具体的には次のようなことをするらしい。
・所有物の整理、不要なものの処分
・財産の整理
・葬儀と準備
・墓の建立
・遺言、家族へのメッセージ
・エンディングノートの作成
「このうち、時間がかかるのは、お墓とエンディングノートです。どんなお墓を立てたいのか、じっくり考えなくてはいけません。お墓はこの世を去った後に残されるあなたの化身なのですから。そして、エンディングノートには、この世に思い残すことがないように書けるだけ書かねばなりません。これはいわば、お客様が世界に残すメッセージなのです。お墓のご希望と、エンディングノートの内容についてお聞きいたしましょう」
私が、自分はどんな墓の下ならば納骨されたいか、エンディングノートにどんな内容を盛り込みたいか、思うところを語ると、終活アドバイザーはたちまち私の終活プランを立ててくれた。
「お墓の建立とエンディングノートの完成には、ざっと 229 年ぐらいかかりそうですね」
「229 年? それでは就活が終わる前に、私は死んでしまうではないですか」
「心配はご無用です。お客様がご存命のあいだに完成できなかったとしても、お客様の終活を別の者が引き継ぎ、さらに後に続く者たちも受け継ぎ、必ずや完成させることでしょう……」
そして、家路についた私の胸は希望に膨らんでいた。残りの人生を壮大な終活のために捧げよう、と決意したのだ。