私たちの社会はスカッとする話で溢れている。スカッとする話は、まとめサイトやツイッター(現 X)には欠かせないトピックだし、テレビでは再現ドラマのお馴染みのテーマのひとつだ。
スカッとする話はたいてい次のようなパターンを持っている。
・語り手は、スカッとする話の体験者か、近くにいる目撃者である。
・語り手もしくは体験者が、なんらかのマイノリティによって不快な目に遭う。
・「なんらかのマイノリティ」は、社会的に弱い人、異常な人、特殊な集団に属す人、孤立した人などだ。スカッとする話ファンは、シングルマザー、嫌われ者の管理職、外国人、オタクが特にお気に入りだ。
・「不快な目」とは、「なんらかのマイノリティ」」の理不尽な要求、過剰な利己主義、度を越した吝嗇などによって引き起こされる。
・この「不快な目」から体験者を救うのが、「秩序の体現者」だ。「秩序の体現者」の役目は、マイノリティを懲らしめることにある。だが、「マイノリティ」と同じ土俵で争うことでそれを行うのではなく、ただ秩序を体現することによってのみ行う。通常、この「秩序の体現者」は「マイノリティ」の上位に立つ権力者・有力者、富裕層である。
・そして、「マイノリティ」による秩序の破壊という不快と恐怖が、「秩序の体現者」による秩序の回復を通じて解消される過程が、スカッとする印象を生み出す。
スカッとする話は秩序の回復の物語であるから、社会不安の緩和に有効である。そして、社会不安がないということは、政権を維持維持するのに好都合である。
それゆえ、現在の政府は、極秘の部署に、似たようなスカッとする話を大量に作らせ、ネットとメディアを通じて密かにばら撒いている。
そんなわけで私たちの社会はスカッとする話で溢れている。だが、現実にはスカッとするできごとなど、起きたためしがないのだ。