私たちの人生はまるでステージのようだ。私たちはそのステージの上で、生涯出会うすべての人々を前にして、曲を演奏し、歌うのだ。
私たちは、自分の人生に関わりのあるすべてのことを歌う。演奏や歌声の良し悪しは関係ない。自分に与えられたものを、力のかぎり鳴り響かせるのだ。
数々の曲の演奏ののち、やがて、セットリストの最後にいたるときが来る。私たちはその最後の曲の演奏が終わると、楽器を置き、ステージの袖に引っ込む。楽器は肉体だ。プレーヤーは魂だ。だから、ステージの上には魂を失った肉体だけが残される。
すると、小さな拍手が客席から聞こえだす。拍手は少しずつ大きくなり、ついにはひとつのうねりとなって、会場を揺るがす。そのときになってはじめて、ステージを離れた私たちの魂に拍手の音が届く(魂はステージの外に出ると意識が混濁しだす)。
「求められている! アンコールだ!」 私たちの魂は目を覚まし、ステージに引き寄せられる。私たちは蘇る。再び楽器を手に取り、最後の曲に取りかかる……
私たちはこのようにして人生の最後のチャンスを与えられるのだ。ただし、生前、コンサートで「アンコールするのはお約束だろ。手を叩くなんて無意味さ」とか「俺が手を叩くまでもない。他の客に叩かせておきゃあいいのさ」などと言って、拍手をしなかった者は、そのかぎりではない。