日本語にはアクセントがあって、日本語話者はこのアクセントで語を区別している。「あめ」と文字で書くとわからないが、「高低」で発音すると「雨」だし、「低高」だと「飴」となる。ただし、これは関東を中心とした標準日本語の決まりで、地域によっても異なるし、個人差もある。
世界にはいろいろな言語があり、このタイプのアクセントを持たない言語もある。そうした言語の話者にとって「雨」と「飴」の区別は難しいこともある。
さらに日本語学習者にとって難しいのは、複合語の場合だ。「はし」は「箸(高低)」と「橋(低高)」では異なるが、「箸」が複合語の「箸置き」となると「低高低低、低高高低、低高高高」のどれかになる。そのどれであれ、「箸」の部分は「橋」と同じアクセントになってしまう。かりに「箸(高低)」を維持したまま、「箸置き」つまり「高低高低」や「高低低低」などで発音してみると、明らかにおかしいことがわかる。
さて、本題に入ると、今朝のできごとだ。私は喫茶店に行き、カウンターに並び、順番が来るとコーヒーを頼んだ
「アイスコーヒー、エムで」
「エムサイズですね」
私が気になったのは、店員が「エムサイズ」を「高低低低低」で発音したことだ。「エム」はそのままだと「高低」だが、「エムサイズ」だと「低高高低低」となる。
私はこの人は外国人だろうか、と考えた。しかし他のアクセントは自然だ。それとも、別の地域の人だろうか? 名札を見ると、カスタマーハラスメント防止のため「T・C」とイニシャルしか記されていない。「T・C」…… Cとは?
そのとき、店員が尋ねた。
「お支払いはどういたしますか」
あまりにアクセントのことに気を取られていたからだろうか、私のアクセント機能にバグが発生した。
「西瓜で、あ、いや SUICA で!」