苦い文学

訃報の行方

江戸時代の歌舞伎役者の年表を見ていると、四十代で亡くなる人が多いのに驚かされる。今は、医療の進歩により、さすがに四十代で亡くなるのは「早世」の部類だが、それでも五十代ともなると死を覚悟するようになる。

私と同年代の友人で、長らく小学校の教員をしていた吉田という男がいる。私も彼ももういつ死んでもおかしくない年齢で、このあいだ電話していて、自然とそんな話になった。

「そのうち、どちらからか訃報がいくようになるだろうな」と私。

「そうだろうね」

私は吉田と共通の友人の名前をあげた。「俺の場合は、村田に、川口に、佐藤、そして吉田の四人に訃報が行けば十分だな」

「俺も村田、川口、佐藤」と吉田は続け、「それから、山田だ」と私の名を含めた。

「ちょっと待てよ」と私は彼が独身なのに気づいた。「俺の場合は家族と一緒だから、家族が訃報を伝えてくれるだろうけど、吉田は独りだろ。誰が訃報を俺たちに伝えてくれるんだ」

これを聞くと、彼は絶句し、無言になった。私はまずいことを言ったと思い、話題を変え、電話を切った。それからしばらくして、吉田からこんなメッセージが届いた。

【私の訃報連絡網】 吉田>川口>佐藤>村田>山田>吉田