苦い文学

自殺ゼロ都市宣言

黒鍬市議会で「自殺ゼロ都市宣言」が全会一致で採択された。我が国の自殺者の数に心を痛めた黒鍬市長が、まずは黒鍬市から自殺をなくそうと始めた肝いり事業だという。いったい誰が反対できようか。

「自殺ゼロ都市宣言」では、黒鍬市の3つの決意が高らかに述べられている。

・私たちは自殺のない黒鍬市をつくります。
・生きづらさを感じている人々を笑顔にする行政をつくります。
・心の豊かさにあふれた暮らしをつくります。

さっそくこれらの決意を盛り込んだ「自殺ゼロ都市宣言」関連施策が実施された。もっとも、当初はなかなか自殺が減らず、市民団体から激しい批判が繰り返された。あまりのひどさに、市長みずから自殺を考えるほどだった。

だが、いつだって正しいものが勝つ。年を追うごとに、自殺者が減っていったのだ。そして、とうとう市長の任期の最終年、ゼロになった。

いま「自殺ゼロ都市」がここに実現しようとしていた。この業績を引っさげて市長は国政にうって出るつもりだ、そんな噂も流れていた。

そのとき、とあるビルの屋上に思い詰めた人が立っている、という通報が寄せられた。

「市長! 自殺しそうな人がいます!」

「なんだと!」

市長は大慌てでビルに駆けつける。見ると、今にも飛び降りそうだ。

市長は叫んだ。「待て! はやまるな!」

思い詰めた人は叫ぶ。「うるさい! 死ぬしかない!」

「すきにしろ!」と市長。「だが、飛び降りるなら、ビルの反対側からにしてくれ! そっち側は隣の市だ!」