苦い文学

世界の言語学者たち

ポーランドのポズナンに滞在していたこの9月、第21回世界言語学者会議(21st International Congress of Linguists)が開催されていたので行ってみた。これは5年に1回開催され、言語学関係では最大規模の学会だそうだ。

学会は1週間にわたって開かれ、全体講演が12、口頭発表とポスター発表があわせて760以上ある。プレゼンテーションの数は、地元のポーランドがいちばん多くて165、次がドイツの100、イギリスの47、日本はその次の37だという。

言語学者会議とはいうが、別に言語学者でなくても参加費を払えば誰でも参加できる。そんなわけで、私でも何食わぬ顔をして潜り込むことができた。

私が会場内をうろついていると、話しかけられた。パキスタンの言語学者だということだが、私の顔を見るなりいった。

「君はネパールから来たのかね? いやフィリピン人かな?」

私は流暢な英語で答えた。

「ノー」

その後、ひとりソファに座ってぼんやりしていると、また話しかけられた。白人の年配の女性だ。

「あなたはチベット人ですか? もしそうならチベット語のことで知りたいことがあるのですが……」

「ノー」

世界の言語学者たちをまどわせたことにたいへん満足しながら、私は会場を後にした。