……そこで私たちは、泣き喚き、大声で叫び続けました。すると、そいつはあわててやってきて、オロオロしながら、私たちを撫でさすったり、水を飲ませようとしたり、何か食べさせようとするのです。
ですが、私たちの決意は変わりません。私たちはそいつの手をはね除け、辺りを水浸しにし、食べ物を放り投げました。そしてそれからまた、声をかぎりに叫ぶのです。そいつは目に涙を溜めながら「お願いだから静かにしてくれ」とか「なんでもするから、落ち着いておくれ」などと言うのでした。
そして、数日経つと私たちは、もうどの街角に出しても立派に通用するくらいみすぼらしく、汚らしく、悪臭プンプンとなりました。大便も垂れ流し、しかもその上でゴロゴロです。私たちは最後の一押しとばかりに、汚れきった姿のまま、喚き散らしました。
するとそいつが駆けつけてきて、涙を流しながら平伏していうではありませんか。「どうかやめてくれ。気に食わないことがあったら謝るし、心を入れかえるから。たのむ、たのむ……」 私たちは笑いたいのを堪えて、盛大に悲鳴をあげ続けました……
それからすぐです。通報があった、と人々がやってきてそいつをどこかに連行して行きました。動物愛護管理法違反。私たちが狙った通りです。
本当のことを言うと、私たちはそいつを憎んでなどいません。ただなんとなく気に食わなかっただけです。でも、私たち犬にとってはそれで十分なのです。
そういえば、この間、新しい飼い主と散歩に出たとき、そいつの家の前を通りました。正直いうとなつかしさすら覚えましたが、そいつが姿を見せたらどうしようかとも思いました。もっともそんな心配は無用でした。「賃貸(即入居可)」の張り紙がありましたからね。