航空券の予約や空港のチェックインカウンターで飛行機の席の希望を聞かれるとき、窓側(window)と通路側(aisle)のどちらを選ぶだろうか。
外の景色を楽しむなら窓側だが、私は絶対に通路側だ。なぜならもっとも自由だからだ。
しかし、飛行機にはもうひとつ席の種類がある。窓側でも通路側でもない席だ。私たちはチェックインカウンターで席を聞かれないとき、「ああ、あの席だ」と観念する。
しかし、この席はいったいなんという名前なのだろうか。航空会社は決して教えてくれない。まるでその席のこととなると、離着陸時の電子機器のようにスタッフたちは心を閉ざしてしまうのだ。おそらく、乗客たちのクレームをかわすために、そのような席は存在しないことになっているのだろう。
しかし、それにもかかわらず、その席は存在し、乗客たちのあいだでひそひそ声でその名が語り継がれている。私が耳にしたかぎりでは次のような名称があるようだ。
「非存在の席」
「決して選択肢に入ってこない席」
「ハズレ席」
「両隣が人の席」
「もっとも窮屈な席」
「おしっこ我慢の席」
「両側の肘掛けを奪われた瞬間、絶命する席」
なお、こんな逸話も伝えられている。スタッフがチェックインカウンターでいつものように乗客にこう尋ねた。
「窓側と通路側のどちらがよろしいでしょうか」
その乗客は怖いもの知らずで鳴らした男だった。まわりに自分の豪胆ぶりをみせつけてやろうとこう答えた。
「いんや、そのどちらでもない席だ!」
その男はただちに貨物室に運び込まれたという。