苦い文学

政府のメンツ

「私は不思議に思っていることがあるのです」といつもの人。

「なんでしょうか?」と私。

「いや、自殺についてなんですが、どうして日本政府はああも熱心に自殺を防止しようとするのでしょうか。特別にサイトを作ったり、電話をかけさせたり、とにかくひどい熱の入れようなのです」

「いやいや、当たり前ですよ。命はかけがえのないものですから」

「そうでしょうか? いや、私もそう思っていますし、絶対に防ぐべきですが、それを日本政府がやっているのがどうにも不思議なのです」

「不思議でもなんでもないですよ。これは政府の責務ですから」

「ですが、日本政府ですよ。日本政府が人の命など大切にしたことなどないじゃないですか。なのに、自殺となると、やたらとキャンペーンを打ちたがるのです。自己責任でどうぞ死んでくださいという政府、基本的に国民の命に価値など認めない政府が、なんで自殺となると猫撫で声で擦り寄ってくるのか、それが奇々怪々なのです」

「いや、それはひどい言いがかりだ、日本政府といえども、死ねなどといわないでしょう」

「ですが、なぜ靖国神社などにいくのでしょうか。今後、国民に『死ね』という可能性を考慮に入れてのことでは? それに、どれだけ貧乏人が見殺しにされていることか」

「なるほど。ですが、たとえば、子どもはどうです。日本政府は子どもの自殺対策に頑張っていると思いますよ」

「ですが、その子どもが不法滞在だったら? 難民の子どもだったら? 日本政府は遠慮なく見殺しにするでしょう。だから、日本政府が子どもの自殺を防ごうとしているのがまったく不可解なのです。こっちでは守ると言いながら、あっちでは平気で殺しているのですから。子どもは子どもじゃないでしょうか」

「……」

「でですね。私は考えたのです。これはメンツの問題だと」

「メンツ?」

「日本政府としては、殺せるのは自分だけだと思ってたところに、下々の者が勝手に自殺などはじめたら、それこそメンツ丸潰れというわけで……」