苦い文学

心の病気

ある男が、心の病気の診断書のことを耳にした。心の病気の診断書があれば、すきなだけ仕事を休めるし、給料も毎月ちゃんともらえる、というのだ。

男はさっそく病院に行って心の病気の診断書をくれと言った。すると医者は怒ってつまみ出した。耳鼻科だったのだ。今度は別の病院に行くと、肛門科の医者が出てきて尻を蹴られた。男はあちこちの病院に行き、最後に精神科のクリニックに辿り着いた。

医者は男を診察してこう言った。「申し訳ありませんが、診断書は書けません。あなたの心の病気は私の技術では見抜けないのです」

「なんだと!」と男は医者に掴みかかろうとした。

「まあ、待ってください。この世に、あなたが心の病気であることを診断できる天才医師がたったひとりいます」

「その医者がどこにいるか教えろ」と男は怒鳴った。

「危険な海のはるか向こう、険しい山岳地帯を越えたところにある広大なジャングルの奥地にその医者の小さな診療所がある、と聞いたことがあります」

心の病気の診断書がどうしても欲しい男は、さっそくボートに乗り込んだ。荒れ狂う海を進むボートはやがて見えなくなり、それきり男は行方しれずとなった。「彼はきっと心の病気だったにちがいない」と人々はささやきあった。