私は写真をよく撮るが、どうもあまり上手くない。その点、私の知り合いのある女性は何気ない写真でもよいものを撮る。構図なのかピントなのかわからないが、見る人みな彼女の写真を見ると「エモい」とか「エモっ」とかいうのだ。
ただの道路でも彼女の手にかかれば、胸をしめつけられるような郷愁にあふれた風景となる。彼女が若者を撮りでもしたらもう大変だ。私たちは二度と帰らぬ日々を思って涙を流さずにはいられないのだ。
彼女は写真の撮り方についてどこかで勉強したわけではないけれど、写真のエモさに関しては一流といって良かった。そんなわけで、私たちは彼女のことを「エモやん」と呼ぶようになった。そして、これが間違いのもとだったのだ。
いま、彼女はエモ写真家として活動をしている。インスタでいくどもバズり、フォロワーもぐんと増えた。「案件」とやらで忙しいのか、それともほかに理由があるのか、私たちとも疎遠になった。エモ写真の腕を鼻にかけて、あちこちでトラブルを起こしている、という噂も耳にした。
なんでも、口髭を蓄えているそうだ。口を開けば「ベンチがアホやから写真がとれへん」と文句だそうだ。