苦い文学

エスカレーターの静止する日

「これは世界的にも珍しい事態です。世界中の研究者がいま日本のエスカレーターに注目しています」と語るのはアメリカのエスカレーター学者、トーマス・リフト氏だ。

「これまで世界にはエスカレーターが動いている国と静止したままの国の2種類しかなかったのです。そこにいきなり日本が登場しました」

リフト氏によれば、日本では、エスカレーターが動いてはいるものの、やけにゆっくりになりつつあるのだという。「研究者は非常にエキサイトしましたよ。エスカレーターが動いている国と静止したままの国の中間の状態がいま、日本で観察できるのですから」 リフト氏は現在、国際研究チームの一員として日本に滞在中だ。

リフト氏が現在想定しているのは、日本がこのままエスカレーターが静止したままの国へと移行するシナリオだ。

「このままいけば日本中のエスカレーターは速度を減じていくはずです。そして、ひとつまたひとつと静止し、ついには日本ではエスカレーターは一機も動かなくなるでしょう」

日本にエスカレーターの静止する日が来るという、なんともショッキングな予測だ。こう驚くと、リフト氏は最新の研究を紹介してくれた。

「じつは最近になってもうひとつ別のシナリオが提出されたのです。日本のエスカレーターはやはり全国的に静止に向かっていくのですが、あるレベルに達すると、逆向きのエネルギーが発生する可能性が高いのです。そうなるとエスカレーターの速度は増加し、近い将来、日本中のエスカレーターは狂ったように暴走をはじめるはずです」

もっとも、リフト氏は科学の限界を認めるのにやぶさかではない。「どちらのシナリオが実現するかを予測することは現時点では不可能です」 こういうとリフト氏はつけ加えた。

「ただどちらにしても日本人は階段を使うようになるでしょうね」