夏はまだ終わっていないが、今年の夏でもっとも苦しかったのは、飛行機の中で発熱したことだろう。
長い間、機内で過ごすと、乾燥した空気のせいか、熱っぽくなることがある。初めはその類かと思ったが、本当に発熱しだした。
体温計がないので何度かはわからなかったが、寒気がしだした。私はブランケットを体に巻きつけ、ネックピローとマスクをした。それでも寒かったが、他に手はない。そして、そのまま、6時間のあいだずっとうなされどおしだった。
熱にうなされていると、現実と夢との区別がつかなくなる。私はなんども隣の席の人と話をしたように思ったが、実際のところ、私の隣には誰もいなかった。また、見境をなくして、うわごとまで言うようになった。
なによりもつらかったのは、眠れなかったことと、いつまでも飛行機が到着しなかったことだ。目の前に設置されたモニターには飛行情報などが表示されている。私は「目的地まで 04:09」とあるのを見ながら、1時間くらい眠りたい、と目を閉じる。
すると、熱のせいで、夢は苦しくて混乱している。だが、夢を見たということは、少なくとも寝たということだ。私は目を開け、モニターを見る。
「目的地まで04:08」
1分しか経っていなかったのだ! あれほど寝たのに! こんなことがいくどもいくども繰り返された。この恐るべき時間を相手にしながら、いつしか私は永遠の苦しみという考えを受け入れるようになった。