苦い文学

フィッシュ

日本の航空会社と外国の航空会社が共同運行するコードシェア便に乗っていると、食事の時間がやってきた。外国人男性の客室乗務員がワゴンを押しながらやってくる。

前の席でこう聞いている。「オムレット・オア・サワー#?%$%#?」

飛行機でのこの食事の選択の英語を聞き取れるかどうかが、旅の成否を決めるといって良い。

「サワーなんとか」とはいったいなんだろうか。酸っぱい肉料理というと、酢豚しか思い浮かばなかった。

客室乗務員が私たちのところにやってきた。私たちというのは、私と年配の夫婦だ。

「オムレット・オア・サワー#?%$%#?」

私たちは聞き取れずポカーンとしている。

「オムレット・オア・サワー#?%$%#?」

すると年配の女性が気がついた。

「さわら信田焼きだ」

日本人の多いコードシェア便だから、この男性客室乗務員は「サワラシノダヤキ」を一生懸命おぼえたのだろう。だが、私たちはそもそも彼が「さわら」という言葉を発すること自体予期していなかったのだ。とはいえ、彼の努力は讃えられてもいいと思う。

「オムレット・オア・サワラシノダヤキ?」ともう一度彼が私に聞いた。

「オムレット」と私は答えた。