苦い文学

ホログラム

お金を下ろしたら、新一万円札が出てきた。じっくり見ていると、銀色の帯の部分で渋沢栄一が顔を動かしているのに気がついた。

暇なので、何度も渋沢栄一を動かしていると、渋沢栄一が怒り出した。ものすごい形相で私をにらみつけた。かまわず紙幣を揺すると、怒った顔のままで動いている。私は大笑いした。

これは、偽造防止のためのホログラムで、世界に先駆けて日本の紙幣に採用されたのだ。

私は渋沢栄一とのコンタクトに挑戦することにした。

「クソジジイ」

栄一は声は出せないが聞こえるらしい。膨れっ面をした。

「ごめんごめん」と私が謝ると機嫌を直したようすだ。「日本の経済の基礎を作った方だと聞いています。いくつもの会社を作って、大金持ちになったそうですね」

こういうと、うなずきながらニコニコし出した。いい調子だ。

「それで、お願いなんですが、お金持ちになる方法を教えてください。今すぐお金が欲しいんです」

渋沢栄一は頼もしげにうなずくと、手を叩いた。すると、私が片手で持っている1万円札が2枚に増えた。栄一も2人だ。そして2人の栄一はたがいに目くばせしてもういちど手を打った。すると、4万円になった。

「すごい! 渋沢先生、すごい!」

4万円は8万円に、8万円は16万円に……私は歓喜して両手で札を掴んだ。だが、両手には1枚だけ。渋沢め! ホログラムでまんまとだましやがったのだ! 偽造防止のホログラムが偽札を偽造するとは!

プリプリする私をみて、渋沢は大笑い! それから一瞬で北里柴三郎の顔に変わると、もう動かなくなった。